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3DCGを勉強する際 絵が描けるようになったほうがいいよ とか デッサンやっておいたほうがいいよ といわれますが 実際のところはどうなのか デッサンというものがどういう性質のものか 紹介しながら 説明します。
デッサンとは観察力と表現力
デッサンは観たものをそのまま書き写すようなイメージがありますが、実際は違います。
観察の段階では徹底的に自分の頭の中にある観念/思い込みを排除して客観的に構造がどうなってるか、どの角度から光があたってるか、材質はどうなってるか、重そうに見えるか軽そうに見えるか なるべく多くの情報をいれるように努めます。
そこから描画にうつっていく際はそこから考え方を一歩 発展させて どの部分がそのオブジェクトをそれたらしめてる要素なのか どういうふうに表現すれば それたらしめられるか という部分を考える創造的な作業になります。
形状には対象をそれたらしめる急所となる部分が存在し そういった部分を的確に見抜いて表現します。何が必要でなにが必要でないか 強く見せたい場所はどこか
その対象を観察して感じ取った重要な部分をどういうアプローチで行えば表現できるか それを実現するためにトライアンドエラーをひたすら繰り返します。
デッサンとはこういうプロセスを通してアート表現に必要な 観察力 美術的な忍耐力 表現力 想像力 感じ取る力 こういった能力を伸ばす優れて体系化された訓練です。
CGにもデッサンの技術は必要
ただし絵が必ずしも描ける必要はない
上の項目で解説したようにデッサンのプロセスの中で美術に必要な要素が多くデッサンに含まれており、才能を伸ばすのに非常に効率的な訓練となります。
実際的な話に移すと 美術の文脈においてCGで行う表現に必要なものはつまるところデッサンに必要とされることとなんらかわりません。
CGの映像制作やゲーム制作の現場では リファレンスを集めて自分の表現したいものを観察しエッセンスを抽出して表現します。 これはデッサンで培う技術とまったく同じ要素です。
ではCGを志す人すべてがデッサンができてなければいけないじゃないかというと そこはケースバイケースになります。
デッサンが必要な人とそうでない人がいる
デッサンや美術の勉強を通らなくてもプロになって活躍しているはCGデザイナーは数多くいます。
その人たちは美術表現に必要とされる
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- ものを観る力 観察力
- 狙った効果が出来上がるまでトライアンドエラーを繰り返す 美術的な忍耐力
- エッセンスをとらえ必要なものを取捨選択し 本質をとらえる抽象化力
- ものを観たときに何が重要な部分かを見抜く 感じる力
を個人制作や現場の中で 絵ではなくCG制作を通して身に着けたはずです。
デッサンの時間を取らなくても必要な素養を生きていく中で自然に身に着けていたり、現場でのCG制作を通して必要な能力を理解してそのつど成長させていくことができたのだと思います。
比較的早い段階で高いレベルのものが作れたりなどの、素養がある人にとってはイメージしにくいと思うのですが CGを始めた段階でこれらの必要とされる能力がまだ発展途上の場合、CGだけやっていてもなかなかクオリティをあげる という世界が見えてこないもので、なかなかいいものがつくれないスパイラルになる人が一定の割合ででてきてしまいます。
自分も完全にその一人で一度CGを挫折し 1年半ほどCGから離れていた経験があります。
デッサンはそれらを解決するためのひとつの近道です。
またデッサンで培ったそういった本質をつかむ観察力というのは 3DCGに活かすほか 美術的な基礎体力をつけるという部分 さらにはエッセンスを見極める判断力は総合的な知性をはぐくむ行いで、ただ単に美術的な素養をやしなう以外にもっと根源的な学びにつながっています。
デッサンはCGでも可能
上記の理由により私個人からはデッサンを真剣に取り組むことをお勧めしていますが、
さまざまな理由により 一見、CGデザイナーになるには回り道にみえるデッサン習得 にまわす時間もお金もない人にはCG上でデッサンを行う訓練が効果的だと考えています。
CGでのデッサンは手描きデッサンと違い テクニカルな側面と同時並行の作業になるので少々難易度が高く 純粋に観察力を養う状態ではありませんが 頭がやわらかく器用な人なら可能だと思います。
実際に対象となるオブジェクトを手元に置いてそれをモデリングしたり、あるいは気に入った写真をネットから拾ってきて それを完全に再現してみたり、 あるいは映画のワンシーンでもいいかもしれません。 それを一度 観念感を排除して正確に再現を試みてみましょう。
モデルとなるものと自分の作品でどれだけ差異があるか 表現すべきところを表現できているか 素晴らしい訓練になるでしょう。
CG表現とデッサンの違い
CGは美術的 感覚的なとらえ方だけでなくテクニカルな部分 オペレーション的な部分を学ばなければいけません。ソフトウェアは常に進化し、それについていく というコストがでてきます。
そのかわりソフトの機能の力によりアーティストが本来 理解しているべき事柄を理解していなくても、高いクオリティを出すことが可能になってきます。
一方デッサンはすべて観察しきらなければ表現ができず、習得に非常に時間がかかります。 デッサンでは正確な正四角形をえがく という行為だけでもかなりの集中力を必要とし、 パースペクティブの理論 空気遠近法などの表現に緻密な手続きと時間がかかります。
しかし一本一本ミリ単位で線を引く過程ですべての工程に意識が働くので 観察力をつけるにもってこいの訓練になります。
デッサン習得後の作品制作
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実際にデッサンやCGの基本を身に着けたあかつきには 自分自身の作品をつくることになるかと思います。その時はデッサンで身に着けた 観察力 忍耐力 抽象化力 感受性を活かして さらに創造力を加味してだれのものでもないオリジナルの作品をつくってみましょう。
個人的な話
僕個人はデッサンを3年以上 ほぼ毎日練習していました。
実はCGを始めてから半年くらいで一度挫折して 1年以上離れていたりしながら 紆余曲折をへて かけてようやくプロとして現場で働きだしたようなスピード感だったのですが、 最初はまったくCGをいくらやっても成長せずついに挫折してしまいました。
一年ほどCGから離れている間に一念発起して デッサンをはじめました。 デッサンすら成長が遅く あとから入ってきた中学生や高校生にあっという間に追い抜かれていったのですが忍耐強く取り組んだ結果、
デッサンとして最低ラインを超えるレベルになってきたころ 3DCGを再開したら 極端なくらいクオリティがあがっていた経験があります。
もしCGを始めてから 自分には才能がないと感じるような人がいたら 一度 回り道に感じるデッサンをみっちりやって満足するレベルになるまで数年を費やしてみてはいかがでしょうか?
以上でこの記事を終わります。